人形遊び-6-

夕暮れの街を幼い子供が行く。
いかにも着ているものは部屋着のような純白のシャツとハーフパンツのみで、防寒具の類は一切付けていない。白磁の頬は年の終わりが近づく街の冷気に当たって僅かに赤くなっている。靴も靴下もつけていない小さな足は、冷たく尖ったアスファルトを直に踏んで血が滲んでいた。
しかし、子供はそんなことは一切気にならないらしく、途方に暮れたように時折辺りを見回している様子は迷子そのものだ。

「ヤハウェ……」

子供は泣きそうな顔で俯き、嗚咽を漏らす。純白の長い髪が顔の前に垂れ、子供の表情を隠す。

―――フィー

不意に名を呼ばれた気がして子供はパッと顔を上げる。キョロキョロと辺りを見回し、声の主を捜すが、子供の周囲には冷えた眼差しで自分を見る、知らない大きな人間達がいるばかり。

「ヤハウェ…」

子供は小さな声で主であり、兄であり、親である少年を呼び、再び歩き出す。
ただ、訳も判らずに直感で。自分が向かっている場所すらも、もう判らない。
純白の幼い子供は、自分を創った者を探し、徐々に暗くなってゆく街を彷徨った。




コートのポケットに入れていた携帯電話が不意に振動した。
歩みを止めぬままディスプレイを見れば、画面には見慣れた隣人の名前が表示されている。

「もしもし、ソノッキー? どしたの?」

セルペンスは普段通りの口調で電話に応対したが、電話の主の言葉に思わず足を止める。

「……フィーが、いなくなった? ……わかった。俺もすぐ探すから、ソノッキーはマンションの近くを探しててくれないかな? フィーの足だからそこまで早く遠くに行くとは思えないけど、俺は一応広い範囲で探してみるから」

焦った声音の園樹になるべく穏やかな口調で指示を出し、通話を切る。

「ヤッ君にでも呼ばれたかな……?」

電話口での口調とは裏腹に、今までにない事態にセルペンスも焦燥を感じていた。そして焦り以上に、何か嫌な事が起こるような嫌な予感がした。
彼は自身を落ち着かるために一度深呼吸し、自宅であるマンションの方角を見やる。

「フィーが知ってるとこなんてたかが知れてる。とりあえず駅の方から探してみるか。……これヤッ君にバレたら殺されるかもなぁ」

そうぼやきつつ、セルペンスは駅の方角へと走り出した。


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