人形遊び-5-

園樹がフィーの遊び相手となってから半月が経過した。
園樹は学校が終わるとすぐに帰路につき、一旦家で制服を着替えてからセルペンスの家へ向かう。するとフィーと遊んでいたセルペンスが入れ違いでふらりと出かけ、彼が帰ってくるまでの数時間の相手を園樹がしてやっていた。
フィーは少しのお菓子と飲み物、セルペンスに買ってもらったのであろう数個の玩具があれば、園樹が放っておいても勝手に遊んでいた。そして時折園樹を見上げ、目が合うと嬉しそうに笑う。そんなフィーの相手を半月も繰り返すうちに園樹は徐々にフィーに慣れ、最初の頃ほど彼の世話を嫌がらなくなっていた。

「ソノキー」

いつものように園樹が自分のための紅茶とフィーのための蜂蜜入りホットミルクを用意していると、フィーが小声で園樹を呼んだ。人慣れしていないのか、フィーは誰かに話しかける時はいつも小声だった。

「ん、何?」

何事かと軽く首を傾げて振り返ると、真剣な表情のフィーが園樹の服の裾を握ってじっと見詰めていた。

「おそと…」
「へ? こんな時間から?」

大きく頷くフィー。時計を見ると既に五時を廻っている。外出するには少しばかり遅い時間だ。

「今日ははもう遅いから、また明日にでもいこう。ほら、もう外も暗いしさ」

紅茶とホットミルクをリビングのテーブルに置き、しゃがみ込んでフィーと視線を合わせる。しかしフィーはぶんぶんと首を横に振った。

「セルさんがいるならいいけど、僕一人だと何かあったら困るし…だから、ね? 散歩は明日にしよう」

 数週間前ならば最初から投げ出していたであろう説得も、だんだんと慣れつつある。しかし普段は聞き分けのいいフィーは何故か今日は頑なだった。

「おそとっ……」
「フィーだってセルさんと約束しただろ? セルさんと一緒じゃなきゃ散歩はしないって。僕だけじゃなんかあった時に困るし」
「ヤハウェっ……!」

何度諭してもフィーはそう繰り返し、首を振り続ける。そんなフィーの言動に、元々そんなに太くも長くもない園樹の堪忍袋の緒がぷつりと音を立てて切れた。

「……そんなに言うなら僕は知らないよ。セルさんに怒られるのはフィーだ」
園樹の冷えた言葉に、フィーは今にも泣き出しそうに瞳を潤ませ、そして玄関へと駆けだした。

「え、ちょっ!?」

フィーの予想外の行動に園樹の反応が遅れる。その隙にフィーは鍵の開いたままだった玄関から素足で飛び出した。慌ててフィーを追って外へ出るが、特徴的な白い姿は何故か、マンションの廊下のどこにも見当たらなかった。
園樹はマンション内を探しながらもポケットに入ったままだった携帯電話を取り出し、このことを報告するためセルペンスに電話をかけはじめた。


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